| あらすじ | 背景 | 登場人物・キャスト・装束 |
能『経正』(つねまさ)*1 まとめ
- 平家物語*2巻七を素材とした修羅*3能*4、公達*5物。
- 政局とは言え、法親王は、権力者である父の意向で、戦いとは無縁の
生活を幼い頃から共に楽しんだ家来を、結果的に討死で失いました。
法親王の、僧としても、友としても、心から弔いたいという気持ち、
経正の弔われて有難いという気持ちは聴衆の誰もが共感できるところ。 - 秋の夜の管紘講*6を背景に、琵琶の音を慕って現れる経正の生前の芸術的生活へのあこがれと、
修羅の苦患*7の姿を見せまいとする恥じらいを優美に情緒深く扱っています。 - 修羅能ですが、勇壮な軍物語でも悲惨な戦いの苦しみでもなく、終始貴族的な平家の公達が表現されています。
能『経正』 あらすじ
京都の仁和寺御室御所*8に仕える僧都*9行慶(ぎょうけい)は、法親王*10の命により、一の谷の合戦*11で討ち死にした平経正を弔うことになった。そこで琵琶の名手として知られた経正が愛用した青山(せいざん)という銘の琵琶*11を仏前に据え、管弦講を執り行う。
秋の夜、経正の成仏を祈る音色が響き、燈火(ともしび)の中に経正が幽霊が現れ、弔いの有難さを告げる。
行慶が声の方へ向くと、人影は陽炎のように消えて声ばかり残る。経正は、在りし日を懐かしみ、青山の琵琶を奏で、夜遊の時を楽しんだ。しかし、経正は、あさましい戦いによって、憤りの心が起こり、さらに、苦しむ姿を見せるがその様子を恥ずかしく思って、人に見られないように燈火を消し、暗闇に紛れて消え失せていった。
*1 | たいらのつねまさ 平経正 |
平経盛(つねもり/1124-1185)の長男。 生年不詳であるが、一の谷の戦い(1184年2月)で 後白河天皇の子息である法親王には 父は、平清盛の異母弟。 |
*2 | へいけものがたり 平家物語 |
鎌倉時代に成立したと言われている 保元・平治の乱で勝利した後の様子から (参考) |
*3 | しゅら 修羅 |
醜い争いや果てしのない闘い、 |
*4 | しゅらのう 修羅能 |
能の演目の中で武人がシテになる曲を言う。 修羅道に落ちて苦しむさまが演じられることから 多くは『平家物語』に取材し、源平の武将を主人公とする。 |
*5 | きんだち 公達 |
親王・貴族など身分の高い家柄の人。 |
*6 | かげんこう かんげんこう 管紘講 |
管弦の楽器により音楽を奏して死者を弔う法事。
雅楽で行われることもある。 |
*7 | くげん 苦患 |
(仏教用語) 地獄におちて受ける苦しみ。 転じて、一般に苦しみや悩み。苦悩。 |
*8 | にんなじ 仁和寺 |
888年に建立された、京都の寺院。 住所:京都府京都市右京区御室大内33 |
*9 | そうず 僧都 |
僧綱(そうごう/日本における仏教の僧尼を 律師の上に位し、僧尼を統轄する。 |
*10 | ほっしんのう 法親王 |
しゅかくほっしんのう 仁和寺第6世門跡。 門跡(もんせき)とは、皇族・公家が 経正の生誕年は不明であるが、法親王と (以下、後白河天皇について) 後に、平清盛が熱病で亡くなった後も平家と 義仲が都に迫った際に、政治に慣れていなかったため 鎌倉幕府とも、多くの軋轢がありながら協調した。 |
*11 | 琵琶 | 元は中国から伝来した楽器であるが 源平合戦の後、鎮魂のために、縁者が 琵琶演奏者を呼び、弔った。 |
能『経正』 背景
作者 | 不明 |
題材 | 平家物語 巻七「経正都落」 |
題材 | 京都 仁和寺 (現在の京都市右京区御室) |
季節 | 晩秋 |
分類 | 二番目物 公達物 |
能『経正』登場人物・キャスト・装束
シテ 平経正 (幽霊)中村政裕 |
ワキ 仁和寺の僧 行慶僧都 村瀬 慧 |
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冠り物 | 梨子 折烏帽子 |
角帽子 (沙門) |
仮髪 | 黒垂
白鉢巻 |
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能面 | 中将 または 今若 (童子、 慈童にも) |
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上着 | 単法被 または 長絹 |
水衣
掛絡 |
着付 | 縫箔 (厚板唐織にも)襟 白・浅黄 または 白・赤繍紋腰帯 |
小格子厚板
襟 緞子腰帯 |
袴/ 裳着 |
白大口 (色大口、 文様大口にも) |
白大口 |
扇 | 修羅扇 (敦盛扇にも) |
墨絵扇 |
小道具 | 太刀 | 数珠 |
作物 | なし |
小物は、分かりやすさを優先して、関連のある箇所に並列に記載しています。
出典 観世流謡曲百番集
参考
『経正』- 芳年『月百姿』(1886) ※
(→ 「浮世絵検索」)
『経正』― 高島千春『能楽画譜』他及び 他の作品 他
(→ 「文化デジタルライブラリー」)
(運営 独立行政法人日本芸術文化振興会)
※ 芳年のこの作品『経正』は、能が題材とされているわけではない。
『能楽図絵』の耕漁は、芳年の門人である。
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