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能『小鍛冶』(こかじ) まとめ
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- 五番目物、切能物、働物。
- 平安時代に実在した京都の刀匠にまつわる話。
- 天皇*1の命により、勅使の橘道成が、刀匠として名高い三条*2小鍛冶宗近*3を訪れ、剣を打つよう命じる。
しかし、刀は一人で打つことができないため、相槌*4がいない宗近は困り果てる。 - 誰の助けを借りて天皇に献上する御剣を完成させるのか。
- 二場で構成されて、キレのある舞や快活な謡など、前半も後半も見どころが多い。
- 装束・面・冠り物にも注目
能『小鍛冶』 あらすじ
三条の小鍛冶宗近(ツレ)は、剣を打って奉納せよという勅命を受けますが、しかるべき相槌(あいづち)の人がいないことに困り、稲荷の明神*5に祈願に出かけます。
すると、気高い童子(前シテ)が現れ、童子は激励の言葉をかけ、中国と日本の伝統の引き剣の徳*6を詳しく語ります。そして、心配なく準備にかかって大丈夫だと言い、姿を消します。
(中入) 宗近が帰宅し、用意を整えて待つと、霊狐が現れて相槌を務め、名剣*7子狐丸(こぎつねまる)*8が仕上がり、また、叢雲(むらくも)*9に飛び乗り、東山稲荷*5の峯に帰ります。
*1 いちじょうてんのう
一条天皇平安時代中期の第66代天皇 (980? – 1011)。
在位は、986年より1011年。母は藤原兼家の娘。
世の中の安寧を願う日々を過ごしながら
不思議な夢を見ました。
新しく御剣を造り上げなさいという
託宣※(たくせん)の夢でした。
※ 神が夢に現れたりして意思を告げること。
神託。*2 さんじょう
三条現在の京都府東山区粟田口鍛冶町
三条小鍛冶宗近古跡が
仏光寺本廟内に現存。ウエスティン都ホテル京都の西隣あたり
(参考)
「三条小鍛冶宗近古跡」京都市ホームページ*3 こかじ むねちか
小鍛冶宗近平安時代の刀匠 (生年不詳)
宗近作とされる作品の中には
徳川宗家に伝わる
国宝の太刀などもあります。*4 あいづち
相槌現代の日常生活では、
相手の話にうなずいて
巧みに調子を合わせることを意味しますが
ここでは、鍛冶 において、
二人の職人が交互に
槌や鎚を
打ち合わすこと、
あいのつちを意味します。
鎚は金属のハンマー。(参考)
「相槌稲荷神社参道」京都市ホームページ
宗近の私邸とされる場所にとても近い。35.0099441, 135.7835139
*5 いなり
稲荷の明神京都府京都市伏見区深草にある
伏見稲荷大社。詞章にある「稲荷」や
「東山稲荷」は
伏見稲荷大社を指します。伏見稲荷, 伏見区, 京都府, 日本
日本全国に約3万あると言われる
稲荷神社の総本宮。
社殿と同じ朱(赤)色の
千本鳥居も有名。大祭神である稲荷神は
稲を象徴する穀霊神・農耕神。
宗近が信仰していた。もともとは「稲成り」だったものが
稲を荷なう神像の姿から
後に「稲荷」の字が
当てられたとされる。狐は、稲荷神社の眷属(けんぞく)※とされる。
※眷属 一族。親族。郎党。従者。(参考)
「伏見稲荷大社」公式ホームページ*6 とく
徳めぐみ。恩恵。(神仏などの)ご加護。 引き剣の徳として挙げられる
日本と中国の例も豪華です。
聞き逃さないようにして
ご覧下さい。*7 名剣 天皇をお守りする
御剣として献上されました。*8 こぎつねまる
小狐丸霊狐が相槌を務めた御剣は
表に「小鍛冶宗近」、
裏に「子狐」と打ちました。*9 むらくも
叢雲群がり集まった雲。 能『小鍛冶』 背景
作者 不明 題材 不明
一条天皇(平安時代)の
頃の話場面 京都 三条 小鍛冶宗近の私邸
京都 伏見稲荷大明神季節 冬
(旧暦11月 冬至を含む月)
[不定とされる場合もある]分類 五番目物 切能物、働物 能『小鍛冶』登場人物・キャスト・装束
能『小鍛冶』後シテ シテ方観世流能楽師 中村 裕
シテ 装束・面
前シテ
童子後シテ
稲荷明神冠り物 輪冠 こたい
狐戴仮髪 黒頭 黒地金緞鉢巻
赤頭 赤地金緞鉢巻
能面 童子
または
慈童ことびで
小飛出上着 水衣 法被 着付 紅入縫箔 襟 –
白・赤
または
白・浅黄縫入腰帯
紅入段厚板 襟 –
紺
または
縹色繍紋腰帯
袴/
裳着半切 扇 童扇 小道具 鎚 ワキ 装束
前ワキ
三条宗近後ワキ
三条宗近冠り物 士烏帽子 風折烏帽子 仮髪 なし なし 能面 なし なし 上着 着付 厚板
掛直垂襟 – 縹色
繍紋腰帯
厚板
長絹
(直垂上下にも)襟 – 縹色
繍紋腰帯
袴/
裳着白大口 白大口 扇 男扇 男扇 小道具 小刀 小刀 ワキツレ 装束
ワキツレ
勅使 (橘道成)冠り物 洞烏帽子 仮髪 なし 能面 なし 上着 着付 厚板
袷狩衣襟 – 浅黄または紺
繍紋腰帯
袴/
裳着白大口 扇 男扇 小道具 なし 作物
作物 中連結一畳台
幣
鉄床
鎚
刀身出典 観世流謡曲百番集
参考
『小鍛冶』- 耕漁『能楽図絵』前半 上(松木平吉, 1901)
(→ 「国立国会図書館デジタルコレクション」)『小鍛冶』1 ・2 ― 耕漁『能楽百番』及び 他の作品 他
(→ 「文化デジタルライブラリー」)
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