中央区
能に親しむ会

東京都中央区 後援
2023(令和5)年6月25日(日)開催

能の写真を見る CHUO NOH FESTIVAL, TOKYO
June 25th, Sun. 2023
National Noh Theater
能『箙』 シテ 観世流能楽師 中村 政裕
  写真は観世流能楽師 中村 裕
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能『杜若』 あらすじ

能『杜若』 観世流能楽師 中村裕

諸国一見の僧*1が三河国八橋*2までやってきました。

沢一面に咲きほこるカキツバタに見惚れていると
そこに里の女が現れ「花のゆかり」をご存じないとは心ないと
難じます。

伊勢物語*3にこの八橋のカキツバタを各句の上に置いて
旅の心を詠むように、といわれた都人が

らころも つつなれにし ましあれば
るばるきぬる びをしぞおもう」*4

と連ねたとみえますが
これは在原業平がこのカキツバタを詠んだ歌ですと教えます。

自分の庵へ僧を案内し、やがて色鮮やかな装束に冠を着して現れ、

この装束こそ歌に詠まれた唐衣*5です。
これは初めて業平と契った高子の后*6の御衣で、
冠は業平が宮中で豊の明の節会*7に五節の舞*8を舞った時のものと言い、

実は、自分はカキツバタの精で

「植えおきし 昔の宿の 杜若
色ばかりこそ 昔なりけり」

という歌も女がカキツバタになった昔語りですと明かします。

伊勢物語の巻々の恋物語を舞いに舞い
夜の白むとともに姿を消します。

*1 諸国一見の僧 他の演目にもワキとして登場する「諸国一見の僧」は何宗の僧か、という研究がある。
*2 みかわのくにやつしま
三河国八橋

現在の愛知県知立市八橋町と言われているが、定かではない。

*3 伊勢物語 平安初期に成立した125段あると言われる歌物語で
後の「源氏物語」にも大きな影響を与えた。
第32回の能『雲林院』も在原業平の演目。平安時代初期の貴族・歌人であり、六歌仙・三十六歌仙の一人である
在原業平の和歌を多く採録しているため、主人公に業平の面影がある。
しかし、中には業平没後の史実に取材した話もあるため
単に業平の物語であるばかりでなく、普遍的な人間関係の
諸相を描き出した物語であると言える。*9
*4 「からころも・・・」

らころも つつなれにし ましあれば
るばるきぬる びをしぞおもふ」

唐衣を着なれるように
なれ親しんだ妻が都にいるので
はるかここまでやって来た
旅のつらさを身にしみて感じることだ。*10

詳しい解説は下記を参照のこと。

*5 唐衣 中国風の衣服。広袖で裾が長く、上前と下前を深く合わせて着る。*10
*6 高子の后 業平とは結ばれず禁忌の恋となった(ことで有名な)藤原高子 「二条后」*9
*7 豊の明の節会 大嘗祭(卯・辰・巳・午の日の4日間)、
新嘗祭(卯・辰の日の2日間)の最終日に行われた宮中儀式。
天皇臨席の、いわば宴席で、白酒(しろき)・黒酒(くろき)が振る舞われた。
直会(なおらい)的要素が強い。
平安時代では、主に豊楽院、後に紫宸殿にて行われた。*9
*8 ごせちのまい
五節の舞
豊明節会(とよあかりのせちえ)で、大歌所の別当の指示のもと
大歌所の人が歌う大歌に合わせて舞われる
4~5人の舞姫によって舞われる舞。大嘗祭では5人。*9

出典

*9 Wikipedia
*10 学研全訳古語辞典


能『杜若』 背景

作者 金春禅竹か
題材 伊勢物語
季節  初夏
分類  三番目物 精天仙物

能『杜若』 登場人物と装束

シテ
里の女 また
杜若の精
中村裕
ワキ
諸国一見の僧殿田謙吉
冠り物  物著に初冠巻纓
・老懸
 角帽子
仮髪  鬘
胴箔紅入鬘帯
能面  若女または
深井、小面
上着  長絹
 着付 紅入唐織
摺箔
襟 ー 白・赤
または白二
縫箔紅入腰巻
胴箔紅入腰帯
無地熨斗目
水衣
襟 ー 浅黄
緞子腰帯
袴/
裳着
鬘扇  墨絵扇
 小道具  数珠
 作物 なし

小物は、分かりやすさを優先して、関連のある箇所に並列に記載しています。

出典 観世流謡曲百番集


「唐衣(からころも)きつつなれにし つましあれば
はるばるきぬる たびをしぞ思ふ」詳しい解説

東国への旅の途中、三河国八橋で、カキツバタが美しく咲くのを見て、その花の名の五文字を各句の上に置き旅の心を詠むよう求められて詠んだとする『伊勢物語』の話は、『古今集』の詞書(ことばがき)でも同様である。いわゆる「折り句(和歌,俳句,雑俳などで,各句の上に物名などを一文字ずつおいたもの。)」である。

さらに、「唐衣きつつ」は「なれ」を導く序詞(じよことば)、「なれ」は衣服がよれよれになる意となれ親しむ意の「馴(な)れ」の、「つま」は着物の「褄(つま)」と「妻」の、「はるばる」は「遥々(はるばる)」と「張る張る」の、「き」は「来」と「着」の掛け詞(ことば)、「なれ」「つま(褄)」「はる(張る)」「き(着)」は衣(ころも)の縁語になっている。

種々の技巧を駆使しつつ、妻への愛情と旅の心をすべて巧みに詠み込んだ手腕は見事である。*10

出典

*10 学研全訳古語辞典


参考

杜若』- 耕漁『能楽図絵』後編 下
(→ 「浮世絵検索」)

杜若』― 耕漁『能楽図絵』及び 他の作品 他
(→ 「文化デジタルライブラリー」)
(運営 独立行政法人日本芸術文化振興会)

掲載内容の転用・転載は禁じられています。


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